カナリア鳴く空
「――君塚、さん…?」

私の名前を呼んで震えている、小さな紅い唇も。

全部、私が間違える訳がない。

水色のドレス姿の彼女とタキシード姿の私の視線がぶつかった。

「――君は…?」

そう聞いた私に、
「わたしは、ママに会いに…」

ママ――それが朝香だとわかったのは、数秒もかからなかった。

信じられなかった。

再会場所が、こんなところなんて。

何より、優衣が朝香が話していた1人娘だったなんて…。

何もかも信じられなくて、私は何と答えればいいのだろう?

そう思った時、控え室のドアが開いた。

「あら、どうしたの?」

何も知らないのん気な朝香の声が、場違いのように感じた。
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