レッスン ~甘い恋の手ほどき~
濃紺のスーツを、ビシッと着こなした彼と一緒に、大きなビルの前に立つ。
「ここ」
彼は、メガネを取り出して、それをかけると、一気に仕事人の顔つきに変った。
なんとなくは聞いていたけれど、私の想像をはるかに超える立派なビルで、行きかう人の数も、想像以上だった。
すごい勢いで上がるエレベーターに驚き、22階でその扉が開いたとき、私の緊張はピークに達した。
「おはようございます」
彼が一歩進める度に、私の事をチラッと見て、そう挨拶する人達。
「おはよ」
彼は、余裕の笑みで、そこを歩いていく。
「本社分室室長」
それが彼の名刺に書かれていた肩書き。
それは、ここで一番偉い人だっていうこと?
そんなことに今更ながらに気が付いて、思わず後ずさりしそうになったけれど、もう前に進むしかないんだ。