レッスン ~甘い恋の手ほどき~
「片桐、これ頼む」
彼に呼ばれて、そこへ戻ると、再びメガネをかけた彼が、真剣に資料に目を落としていた。
その姿を見て、初めて会ったあの日を思い出す。
私の落としてしまった資料を、丁寧に拾ってくれた彼は、プレゼンが始まるや否や、鋭い眼光でそれに臨んでいたっけ。
「あのっ、どうすれば」
「君に任せる」
「えっ?」
「ここにある資料を使って、君なりにまとめて欲しい」
彼が、どんな仕事を手掛けているのか、少しも知らない私。そんな私に、きっと大切な仕事を任せようとしてくれている。
「君ならできるはずだ。分からないところは遠慮なく聞きなさい」
彼のそんな言葉に、私は頷いた。
やってみよう。彼がそういってくれるなら、できる気がしてくる。
自分のデスクに戻って、その資料の数々を見ると、なんとなく理解してきた。
ある商品の販売戦略。
それにかかる宣伝費や、人件費。
販売の見通し――。
これなら、私にも。
すぐにその作業に没頭した私は、時間が経つのも忘れていた。