レッスン ~甘い恋の手ほどき~

着替えがなくて一度自分の部屋に戻った彼と、途中の駅で待ち合わせる。


「おはよ、片桐」

「おはようございます、深谷さん」


突然、仕事モードにスイッチの入った彼だけれど、メガネの下の目が、笑っている。



彼が一緒に出社すると言ったとき、思わずそれを断ってしまった。
だって……そんなこと、今までの私にとってはタブーだったから。

だけど、「華帆は堂々としてればいい。何の問題もない」って言ってくれる彼と、あの部の人たちの人柄に……思わず頷いてしまった。


会社のエレベーターも、初めて来たときと同じように一緒に乗って、部のドアの前で躊躇する私の背中を押してくれたのも、彼だった。



「あれ、深谷さん、華帆ちゃんと一緒っすか? まさか朝帰り?」

「そんなとこだ」

「マジですか。華帆ちゃん、食われちゃったの?」

「まだ、食ってない」


まだって……。

部の人たちの質問を顔色一つ変えず返して、室長室に入る。






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