レッスン ~甘い恋の手ほどき~

「華帆ちゃん、何か目が虚ろ。ここ、間違ってるし」

「すいません」


山中さんの声で、ハッと我に返る。



「今日、華帆ちゃんと深谷さんが一緒で、俺たちホッとしたんだけど、何かあった?」

「いえ……」


彼の昨日の言葉は、私が思っているよりずっと重大で、もしかしたら会社の行く末を左右するかもしれなくて……そんなことを考えると、途端に心臓がどきどきし始める。

彼は大丈夫だと言ってくれたけど……やっぱり、辞めなくてはならないのだろうか。



「あのっ……西川さんって、どこの会社の……」


「あぁ、彼女はうちと合併するって噂の会社の社長の娘ね。

不景気で、ドンドン吸収合併が進んでいるだろ? ここも例外じゃなくて、どことくっ付くか模索してるんだ。それで、社の運命が決まるからね。そこと合併すると、業界1の規模に躍り出る。

だけど、合併を目の前にして、どんでん返しってこともあり得る。それを避けるための政略結婚だと俺たちは踏んでる。一言でいえば、人質交換」


溜息交じりに、山中さんが言葉を続ける。




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