SCHUTZENGEL ~守護天使~
◆第一章~虚空の景色
*恩物
男は疲れていた──彼は先程、二年間つき合っていた恋人にふられたばかりなのだ。
二十代後半の青年は、紺色のネクタイを緩めて少し眉を寄せる。
肩までの髪は焦げ茶色で、仕事だからと着ているスーツはさほど似合っているとも思えない。
容姿は悪くはないといった程度だが、見る者から見れば良い顔立ちだろう。
街の喧噪にあぶれるように真っ暗な空を見上げて溜息を吐き出す。
仕事の帰りに彼女と待ち合わせ、切り出された別れの言葉は彼の耳に幾度かこだました。
自分には勿体ないと思える美人だったが、とうとう愛想を尽かされたらしい。
こっちには何の取り柄もないのだから仕方がない。
< 1 / 257 >