冷蔵庫の穴

アパートへ戻り、
スーパーで買った

竹輪の磯辺揚げ

を魚に発泡酒を呑む。

冷えた身体が
徐々に火照り出してきた。
あっ
という間にカラになるが、
何だかまだ物足りないので
もう一本飲もうと、

冷蔵庫の扉へ
手を伸ばした瞬間、

やりかけの仕事を
思い出してしまった。

糊だ。

ほろ酔いの頭で
今日あった出来事が、
コイツのせい
だと気付かされる。

あたしの人生の

ある分岐点、

あるいは岐路、

はたまた
重要な選択を迫られる時、
コイツは
必ず絡んでくるのだ。

糊だけに。

そう、
中学3年の冬。
その日は第一志望高校の
面接試験だった。

緊張で一睡もできなかった
あたしは、
朝、
鏡を覗くと、瞼が赤く
パンパンに腫れ上がり、
ウルトラマンのような
目になっていた。

これはマズいと焦り、
取り乱し、リビングの
引き出しの中にあった

糊をアイプチ

代わりにして二重を作った。

無理に二重にしたせいか、
まるでヘビに睨まれた
カエルのよう。
吃驚した目になっていた。

走って
面接会場へ向う道すがら、

砂埃が舞った。

冬なのに走ったせいで、

額から一筋の汗が流れた。

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