片想
「音を失って失意のどん底に落ちたけど。
でもそうならなければ得られなかった大切なものもたくさんあったしね…」
そして彼女はアタシの手を取る。
「薬師さんもそう、
そういうときに出会えた大切なひと」
「アタシ…?」
「うん、健聴者のままだったらアタシたち会えなかったでしょ?」
そう言って彼女はくすっと笑う。
ちょうどそのとき見知らぬ男性が氷室さんのところまでやってきてアタシに頭をさげる。
「いつもミオから話は聞いてます。
薬師…さん?」
その彼のさわやかな笑顔は今の季節にとても合う。
夏のような。
「え…?
はい…」