千年樹
「痛い。やめろ馬鹿」
「っ」
俺の声にビクッと肩を揺らして、振り返る女の子。
女の子は目を見開いて固まる。
何だ、何だと顔を動かす、友人。
一体何が起こったのか俺には検討がつかない。
恐らく、友人にもついていないのだろう。
「あなたは…っ」
俺の目を見詰めたまま、女の子は言葉を零す。
「え? 何だよ春、知り合いだったのか?」
「は? 初対面だが」
「へ? 何っ!? どういうこと!?」
「……さあな」
「あのっ」
女の子の声に俺と友人の会話が途切れる。
妙な空気に包まれていくなかで、俺はあの声を思い出していた。
「春様」と呼ぶあの優しい透明な声を――…。