泣かない家族

「・・・父や兄を説得してみる。頑張ってみる。お母さんがまだわかるうちに帰してあげようって言ってみる。最近、お母さん、ボケた人みたいになる時がある・・・でもハッキリしてる時もある・・・」



「肝臓ガンはね脳が腫れる事があるから。だからちょっと痴呆みたいになる事があるの。原因はそれとモルヒネのせいだよ」


あたしは涙を拭いて看護士にお願いをした。


「約束してほしい事があるんです。母は自分がどんな風になっているかを知らないんです。鏡も見ないから。だから、母の体調が悪そうな時でも『元気そうだね』とか『調子いいみたいだよ』って言ってもらえますか?それだけで大丈夫かもしれないって思うから」


「わかった。他の看護士にも伝える。血圧とか体温計ったり、点滴交換する時に必ず『大丈夫、バッチリだから』って言う。ビタミン剤が効いてるねって言う。約束は必ず守るから」


看護士と1時間程話してあたしは病室に向かおうとした。


「あ、お母さんあたしがいない事を不審に思うかも」


看護士はちょっと考えてから言った。


「オムツの話してたって事にしようか?そろそろ買って来て下さいって言われたって事で。女性だから娘さんに頼んだって事で話合わせよう」


「わかりました。家に帰す事、必ず説得してみせます」


「うん」看護士は笑顔で言った。


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