泣かない家族
母は父の勧めで北海道大学病院でガン治療する事になった。
ガンの進行具合とこれからの治療、手術の説明を両親が行くと言ったのにあたしは休暇を取って付いて行った。
眼鏡をかけたいかにも『外科医』な感じの乳腺外科の担当医師はMRとCTを見ながら説明した。
母の乳ガンはリンパにまで進行していた。
これは初期症状ではない。
それよりも2段階程上だと思う。
6月には抗がん剤治療が始まり、ガンを叩いてから年末か年始に手術する事となった。
母もあたしも無言で説明を聞いていたけど、父が色々と質問していた。
抗がん剤は「タキソテール」という種類のものを3週に1度、計8回点滴で入れる事になった。
説明を聞いても母は理解をもちろんしていただろうし「頑張ります」と言っていたけど、あたしにはちんぷんかんぷんで、ただわかったのは予想よりガンが進行している事。
そして乳房を温存出来るか全摘になるかわからないという事。
母の希望はなるべく温存したいとの事だった。
進行の具合に目眩がしそうになったけど、ここは天下の北大だ。
よく、ロシアの子供の移植手術などでニュースを賑わせている北海道で1、2を争う有名な病院。
去年は病院じゃないけどノーベル賞の学者だっているくらい、北海道では一番難関な大学。
その付属病院なんだから何も心配する事はない。
目眩がしそうな自分をそう思って奮い立たせた。
それに父が探して調べた医者だ。
医薬会社に勤める父が腕のない医者なんて探すはずはない。
だから・・・大丈夫。
説明を聞きながら何度もそう思い込んだ。