泣かない家族
母がガンになった事であたしの生活は大きく変わった。
それまでは彼氏との家で過ごしていたのを、彼氏に母の事を伝えて
「出来るだけ実家にいたい」と言うと「その方がいいよ」と言った。
彼氏との家で過ごすのは週末から月曜まで。月曜にそのまま会社に行って今度は実家に帰る。
あたしの生活スタイルはこうなった。
彼氏と付き合い始めて3年以上経っていた。あたし達は正直あまり上手く行ってなかった。
その1年後に別れが来るのだけど、その時に言われた。
「ハルがいない時間がすごく楽だった。身体の心配もしなくていいし、イライラしなくてもいいし、友達と遊ぶのも気楽だった」
あたしは彼を縛っていたつもりはないけど、かなり遠慮していたみたいだった。
のちにわかるあたしの病気が何なのかわからずに「ただのワガママ」と思っていたから。
母は病院に聞いてどんな帽子がいいかを探してきてはあたしに見せた。
いかにもな感じの帽子。
それかバンダナを巻けと言われたらしい。それだけは嫌だと言って柔らかくてチクチクしない素材の帽子を探しては「高かった」とため息をつきながら見せてきた。
「ダサくない?やめなよ、お母さん編み物出来るんだから自分で編んでみれば?」
あたしがそう言うと、次の日から毛糸じゃない素材の糸で編み物を始めた。
出来上がった帽子を被ってみて若者すぎると言ってあたしにくれた。
写真を撮った次の日、母はかなり短いショートカットにしていた。
元々ボブ程度の長さだったけど何だか必要以上に短く感じた。
でも、長い髪がごっそり抜けるよりはいいだと思ったらしい。
「なかなか抜けないもんだね」
と父と母と3人で笑っていたけど、ある日突然それは始まった。