泣かない家族
8回の抗がん剤治療を何とか乗り切って、お正月明けに手術をする事が決まった。
抗がん剤が終わって体力が少し戻った母の頭からは少しだけ髪が生えてき始めた。
今まで白髪染めをしていたからそこまでわからなかったけど、母の髪は真っ白だった。
既にほぼ白髪になっている父と同じくらい真っ白は産毛の様な髪がてんてんと生えていた。
「これを機会に真っ白にしちゃおうかな?」
頭を撫でながら母は言った。
「え?まだ59でしょ?早いんじゃない?両方白髪だと自分もすごく歳な感じがするから嫌だな」
あたしが渋い顔をすると笑った。
「そう?でも健康な髪が生えてくるんだからまた痛めるのもなぁ」
「まぁ、まかせるけど。完全に生えてきたらにしなよ」
「そうだね」とまた笑った。
大晦日と正月のお節や雑煮の準備をしている母は元気だった。
抗がん剤の影響で爪の黒さや肌の色までは戻らないけど、何より気怠さがなく口内炎もないのが嬉しそうだった。
あたしも相変わらず正月の準備は特に手伝わずに彼氏の家で30日まで過ごしていた。
1人で年越しをする彼氏にはすごく申し訳なかったけど、我が家の鉄の掟を破ってまで年越しを一緒には出来なかった。
彼氏も最初こそ寂しそうだったけどそれが2回3回となれば慣れたようで自分で勝手に雑煮を作って食べていた。
仕事上、当番制で札幌に残らなくてはいけないから実家に帰る事も出来ない。
「別にいいよ、じゃあ2日に会おうね」
30日の夜、彼氏は決まってそう言ってあたしを送り出した。
年明けの5日、母は北大でガンの摘出手術をする。