泣かない家族
ストレッチャーで運ばれる母は酸素マスクをしたまま眠っていた。
その姿が一瞬「生きてるよね?」と不安にさせた。
執刀医である母の担当医が出てきて手術は成功したと言った。
乳房も温存出来たと聞いてホッとしたけど、医者は少し困り顔で
「リンパのガンを全ては取り除けませんでした」
と言った。
でも8割り以上は取り除いたから成功に該当する。
再発の危険は2年以内に50%。
少し不安はあるけど、成功は成功だ。
眠っている母の顔を見たけど、特に苦しくもなさそうだった。
外科手術だから明日にでも動けるらしい。
手をそっと握ってみたけど手が冷たかった。
元々母もあたしも手足は冷たいからこれが普通なんだろうけど。
「よかったね、あたし兄ちゃんとか親戚に連絡してくる」
父にそう言って、タバコが吸える外に出て携帯で兄へ母の妹弟へ、友達へ電話で「成功した」と伝えた。
ゆっくりタバコを吸っていたら1件電話をかけるところを忘れていた事に気が付いた。
携帯をもう一度手にしたとことであたしの記憶はプツリと消えた。