泣かない家族
母と入院中、あたしはあちこちの検査で朝っぱらから叩き起こされて何度血液検査をしたかわからない。
常に心電図は胸に貼付いていて、昔でいうポシェットの様にぶら下げて行動していた。
12階から出るとデータを感知出来ないから出ないようにと言われたけど、あたしの性格上そんなものを守るはずもなく、どこかが痛いとか苦しいわけでもないから、病院内をグルグルと見学して回ったり、売店の本屋にハマったりスタバの常連になってカップまで買って飲んだり、タバコを吸いに行ったりでいつも館内放送で呼び出しされていた。
病室のおばあちゃん達もあたしのウロウロぶりにすっかり慣れていたから、カーディガンを着ると「タバコかい」と笑いながら、ついでに売店でお使いしてきてほしいとあれこれ頼んできた。
朝食と夕食は7階が12階で母と一緒に取っていた。
広くて明るいフリースペースで2人で向かい合わせで食事をしながらお互いに読んだ本の貸し借りをしていたりした。
母は何だか楽しそうで饒舌だった。
「何そんなに楽しいの?」あたしが不思議に思って聞くと、嬉しそうに笑いながら言った。
「昔のハルに戻ったのが嬉しい」
昔のあたし??
昔のあたしって何だ??
そういえば、彼氏と付き合ってからこんなに仲良く食事もゆっくり一緒って久し振りかもしれない。