泣かない家族
母はあたし同様にテレビをあまり見ない人で本が大好きだった。
その母がハマったテレビがアメリカのドラマでSFものの『X-ファイル』。
母は自分が理解出来ない人や物事を「X−ファイル」とよく言った。
あたしも見事な「X−ファイル」であり、ファイルの中は膨大な量になったのかも知れない。
「X−ファイル」こと、あたしはこっそり着替えて靴を履く。
玄関前のガラス戸を少し持ち上げてゆっくりと開けた。
それから外へ出ると、玄関前でタバコをくわえてから友達が来るのを待つ。
札幌へ転校してきた我が家の位置は夜遊びする男友達の家の中間にあった。
車もない高校生のあたし達の待ち合わせ場所は大体「ハルの家」だった。
朝までカラオケやバイクの後ろに乗って遊んで明け方に酔っぱらいながら帰る。
それから寝るんだから、学校へはいつも遅刻ばっかりしていた。
転校するキッカケは父の転勤だった。
函館の公立高校に通っていたあたしは、てっきり父は単身赴任をするものだと思っていた。
高校を卒業して札幌の予備校に通った兄と2人で暮らし、こっちは母と2人で暮らす。そう思っていて、転勤の話を聞いた時も「そうなんだ」というリアクションをした。
あたしの家は転勤族だけど、全員旭川生まれ。
あたしの場合は生まれただけですぐに函館へ転勤になったから、故郷も地元も函館。
幼馴染みも全員函館の人。
だから母からの言葉にはかなり動揺した。
「もう担任の先生と話してあるからね。2月には編入試験を受けなさい」
寝耳に水とはこの事で何も知らないで学校へ通っていたのにあたしの転校は決定的になっていた。
学校があたしのサボリ癖や勉強をしない態度に呆れて出したみたいだ。
誰も知らない街へ引っ越しする。
そんな事が許されずあたし達は何ヶ月も大喧嘩をした。