泣かない家族
母が見舞いというか自分の診察とあたしの洗濯にきた。
パジャマのあたしよりマスクをして帽子をスッポリと被っているこの人の方が重病だと思う。
自覚症状がないあたしの方が長く入院しているのは変な気分になる。
「体調どう?倒れたりしてない?」
椅子に座って母が聞いてきた。やっぱり変だと思う。
「別に何ともないけど。そっちこそ大丈夫なの?」
「お母さん?大丈夫だけど?術後も順調だし、髪も段々増えてきたし」
「へー・・・」
「でも良かったじゃない、今週退院出来るんだから。しばらくは家で大人しくしてなさいよ?彼氏の所に行くのも控えなさい」
「それはわかってるけど・・・大人しくって家で寝てろって事?」
母は頷いた。
「お母さんは退院して何してるの?」
「何って家事を普通にしてるけど?」
「大丈夫なの?無理して来なくてもいいよ」
「来たのは自分の診察のついでだから。ほら洗濯物出して、洗ってくるから」
あたしの洗濯物を持ってさっさと洗濯機の方へ行ってしまった。
退院の日も休みを取った父と一緒にきて、おばあちゃん達に挨拶をしていた。
親だから当たり前だろうけど、この人ガン患者なんだよなぁとやっぱり変な気分だった。