泣かない家族
イベント会社の経理事務に決まったあたしは契約を済ませるとその足でがんセンターへ向かった。
母の病室へ向かう途中、「ハル!」と母の声が聞こえた。
振り返ると談話室で母の仲良しの友人と3人でお茶を飲んでいた。
「あれ、ハルちゃん随分ちゃんとした服着てどうしたの?」
母の友人に言われて「会社の契約だったのさ」とあたしも椅子に座った。
契約書を母に見せると「給料随分安いんだね」としかめっ面をした。
「とってくれるだけありがたいよ。北大行くのも認めてくれてるし、さすがに草むしりなんかさせられないから大丈夫だよ」
母は点滴をしたままで「これからCT撮るんだって」とあたしに言った。
そうこうしてるうちに母は看護士に呼ばれて
「ちょっと行ってくるからハルも一緒に待ってて」
と言った。
母が去ってから母に友人が急に真面目な顔になってあたしに言った。
「ハルちゃん、お母さん転移したかもしれないよ」
「え?まさか」あたしは笑ってしまった。
「私何だかそんな気がするんだけど」
「だって手術して9ヶ月だよ?そんなに早く転移なんてしないと思うよ?抗がん剤も飲んでたし放射線もしてたし月に一回検査してるだろうし」
「それが検査は特にしてないって言うじゃない。お腹が痛いってのも異常だよ」
「でも・・・」
手をしっかり握られた。それだけでもビックリする。
「どんな事になってもしっかりするんだよ?わかった?」
「・・・わかった」
あたしは頷いたけど心の中では(まさか)と思っていた。