泣かない家族
あたしが母の病院へ行くというと夕方に顔を出して帰っていた。
そんな日はあたしが面会時間の終わりまでいる事になる。
不思議がもう一つあるとすれば兄にも会わない。
どういうローテーションなのか常に最後まで残る家族は1人だけになっている。
母の病室に顔を出すと「ハル、お帰り」と笑顔で言った。
「ただいまー、めっちゃ疲れた」
椅子に座るとあたしはため息をついた。
「仕事どうなの?」
聞かれてあたしはカバンから大きな手帳を出した。
手帳の中身はコンサートの日、場所、会社から派遣される人数を書いてある。
経理のあたしはこれを把握して売り上げの予想を立てて行動している。
「今月札幌ドームでジャ○ーズの公演があるから地獄だね」
母はあたしの手帳を興味深げに見ながら「へー、毎日色んなのあるね」と言った。
「よくなったら行きたいの教えて?優遇させてチケット取れるから。コンサートなんて行った事ないでしょ?あ、徳○とかは?カヴァーアルバム好きじゃん、コンサート一緒に行こうよ」
「うん、行ってみたい」母は笑顔で言った。