ユリの花

はじまり

はじまり


　ユリはぼんやりと遠くを眺めていた。雨がシトシトと庭の草木を濡らしている。今日で２か月。雨は毎日・・・一秒足りとも休まず降り続いている。

　この異常現象はここ福岡の田舎町だけではない。
　福岡に限らず、九州、日本、いや世界中で続いていた。別に洪水をおこすとか、そういうわけではないのだがニュースはこの話題で持ちきりで、お偉い学者たちの中には世界の破滅だとか非現実的としか思えないようなことを平気で言いだす者もいた。
とはいえ、農作物の不作は確実で少しずつ生活にも影響を与え始めている。

「今年の梅雨明けはほんの少しおそいだけ」

　明らかに検討違いな私の憶測に隣に立つ、真白な髪の毛をした若い男はため息をついた。

「そんなわけないだろう。お前は本当にものわかりが悪いな。それとも現実逃避でもしたいのか？」

私はギリギリとそいつを睨みつけた。白髪の男は少なくとも日本人とは思えない顔をしている。金色の瞳に褐色の肌、手足はすらりと長いが体つきは意外にしっかりとしている。

私が父親の部屋からくすねて来た白いシャツとジーンズを着ているが足の長さが違うせいか全く似合っていない。

「ユリ、お前にもこの状態が異常なのがわかるだろう？」
「わかるよ。・・・タロウがこうしてここにいるのも十分異常だし」
　タロウというのはこの男の名前だ。

　タロウは２か月前、この雨が降り始める前日に突然私の目の前に現れた。高校から帰り、部屋のドアを開けると彼は当たり前のようにゆったりとくつろいでいたのだ。ごく一般の人々と同じように私は彼を見て呆然と・・・立ち尽くしたりはしなかった。見知らぬはずの彼の顔を見た瞬間、言葉に表せない不思議な気持ちがこみ上げてきたのだ。ただ、それも初めだけで、私はこの怪しげな不法侵入者に殴りかかった。顔つきだけでも怪しいのに、真っ白なローブを着流し、首にはジャラジャラと宝飾を下げている。空手全国１位の私が殴りかかるには十分な理由だった。