ユリの花
「私、馬なんて乗れないけど」
「私と一緒に乗れば問題ありません」
 そういう問題なのだろうか? 運動神経はいいのだが・・・私はとにかく怖がりなのだ。馬と目が合い、思わずシュリの袖口をつかんだ。シュリは微笑みながら私を馬に乗せる。
「た、高い・・・」
 馬上は思っていたよりもずっと高かった。地面がずっと下にある。ドキドキと心臓がなるのが自分でもわかった。
「ちょっとシュリ・・・」
「さあ、行きましょう」
 シュリは身軽に馬に跨ると鐙(あぶみ)を思い切り踏んだ。
「きゃ、きゃあ」
「以外に怖がりなのですね」
 言葉は丁寧だが、からかうような物言いにムッとする。後ろを振り返ってみればシュリは楽しげに笑っていた。
 昼間とは全く違う表情。さっきも感じたが・・・こちらが普段の彼なのだろうか?
「ちょっと! 私は馬に乗るのなんて生まれて初めてなのよ。笑うなんて失礼よ」
「申し訳ありません。しかし、馬に乗れないから笑ってしまったのではないんです」
「そんなこと言っても遅いんだからね」
 腹を立てたまま前に向き直る。後ろから私を包むように伸びたシュリの腕が馬を自在に操る。
あっというまに景色が流れ、知らない風景が次々に飛び込んでくる。そういえば目的地はどこなんだろう。遠くって?
「ほら、ユリ様」
 シュリに促され遠くに目をやる。
「きれい」
 水面が月光でキラキラと光る。眼前に広がるのは美しい湖。暗い闇夜にぼんやりとその光だけが浮かび上がる。シュリは湖のほとりに馬を落ち着かせ、軽々と飛び降りると次は私の手を取り、馬から下ろした。絵本のお姫様と騎士みたいなその行動に何となく照れてしまう。


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