ユリの花
「ユリ様の世界にも湖はありますか」
「うん。でもこんなにきれいな湖を見たのは初めてかもしれない。すごくきれい」
 水辺まで歩み寄り身を屈める。
「危ないですよ」
「平気、浅いから」
「濡れますよ」
「うん、大丈夫」
 手を差し入れると冷たさが気持ちいい。シュリを見やると彼は困ったように笑った。
「あなたは本当に変わっている」
「普通よ」
「異国からお守りすべき姫君が現れると聞いた時は緊張で夜も眠れませんでした。私がこれまで出会ってきた姫君は皆傲慢でわがまま、もしくは世間知らずの深窓のお姫様でしたから」
「私はお姫様じゃないから」
 シュリは私の隣に座ると同じように手で水をすくった。
ふたりの前に丸い波紋が広がる。
「実際に私の目の前に現れたのは今まで出会った姫君よりもずっと変わったお姫様でした。宮殿にはいたがらない。どこに行ったのかと思えば泥だらけで帰ってくる。何と活発な姫君かと思えば部屋にひきこもり泣き続ける」
「知っていたのね!」
 顔が一瞬にして赤くなるのがわかった。セーラが言ったのだろうか?
「でも私はそんなあなたを見ているのが楽しいんですよ。ですからディーンのようにもっと私に頼ってほしいんです」
 私はシュリを見つめた。月の光でブロンドの髪が闇夜にキラキラと輝いている。
「私はあなたを嫌いだと言った」
「はい。でもそんなこと気になりません」
「変なひと」
「変なのはお互いさまではありませんか」
 シュリが優しく笑うのでつられて笑ってしまう。もしかしたら私はこの人を勘違いしていたのかもしれない。

< 8 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop