I wanna be your only lover



タクちゃんが帰る日が来た。

5月なのにとても暑い日だった。

タクちゃんの乗る電車は16時ちょうどに駅を出る。

時間ぎりぎりまでタクちゃんはあたしと手をつないで、

ずっとしゃべっていた。

あたしは、

わがままにも、寂しいと思っていた。

このままタクちゃんが傍にいてくれたら、

あたしはタクちゃんだけを見ていることが出来るんじゃないか、

なんて考えたりして。

タクちゃんのタイムリミットまであと5分。

そろそろタクちゃんは改札を通り抜けて電車に乗らないといけない。

そろそろだね、と呟いたあたしに、

タクちゃんが言った。




「美生、大好きだよ」




泣きたかった。

どうしてこの人だけを想っていられなかったのだろう。

苦しい、苦しいよタクちゃん。

一体あたしはどんな顔をしていただろう。

「…あたしも、大好きだよ」








優しく笑って、タクちゃんは改札を抜けて行った。

ずっとつないでいた手は、

暑さでじっとりと汗をかいていたのに、

夕方の風にさらされて、

少し冷たくなっていた。

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