I wanna be your only lover


「ゴールデンウイークはどっか行ったか~?」

運転席の敦さんが話題をふった。

…と、いつもならいちばんに答えてもおかしくないはずのこずえが、静まり返っている。

それにつられてか、車内はしーんとしてしまった。

空気を読んだオガが、あわてて話をつなぐ。

「あっ、俺海行きましたよ、海!」

すると、隣りのこずえがびくりと肩を震わせた。

それに気づかないオガは話を続ける。

「まだめっちゃ海水冷たかったっすよ。なっ、こずえ」

ん?

そうか、こずえも海行くとか言ってたな。

しかしこずえの反応はない。

これは何かあったな。

敦さんもそう感じたのか(さすが長老!)、話をそらした。

「まぁまだ5月だったもんな、そりゃ冷たいよな。ところで美生ちゃんは彼氏くんに会ったりしなかったの?」

ぎくり。

なぜそこに話を持っていくんだ…

事情を知っているこずえは、

さっきまでの沈んだ顔はどこへやら、

にやにやとミラー越しにこっちを見ている。

敦さんはタクさんと仲が良いから、

この手の話は避けたい気持ちでいっぱいだ。

「会いましたよ~。…っていうか、オガは彼女いないの?」

我ながら苦しいがさらに話題をそらす。

「え~、オレに彼女いるように見える?」

冗談のようにオガが答えたが、

今度はこずえが顔をこわばらせた。

なんなんだ一体…

その後は敦さんがひとりトークショーを始めたのにあたしがときおり相づちをうつくらいで、

到着まで気まずい空気が車内に流れていた。









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