I wanna be your only lover
タクさんとは週に何度も会っている。
会うのは決まってあたしのアパート。
タクさんはあの夜以来あたしを抱かなかった。
ベッドで少しあたしをいじって、
それだけ。
あたしはそれでもいいと思い始めていた。
甘い甘い毒に侵された、
みたいに、
あたしの感覚は麻痺していたのかもしれない。
てんけんの飲みが終わって、
あたしはタクさんに送ってもらっていた。(シオリさんは今回も不参加)
ふんわりほろ酔いで、
気分が実にいい。
タクさんは部屋に入り、
あたしがベッドに入るのを確認すると(おとうさんかといつも思う)、
『じゃあな』と言ってあたしの頭をなでた。
行っちゃう。
タクさんが行っちゃう。
行かないでほしくて、
起き上がってタクさんに抱きついた。
…欲しかった。
ただこの人の温もりが欲しかった。
『…タクさん、エッチ、しよ』
タクさんの身体が強張った。
振り返ってタクさんは、
『ダメ』
そう、ただ一言告げた。
そのまま玄関に向かって靴をはくタクさん。
追いかけて、
すがろうか。
そんな想いが頭を掠めたけれど、
今ならまだ引き返せるかもしれない。
身体は一度だけ知ったけれど、
あれから、
キスすらしていないのだ。
タクさんはその手であたしに触れることはするけれど、
自らにあたしが触るのは許さなかった。
だからまだ、
引き返せる。
今日は、
チャンスなのかもしれなかった。
…しれなかった、のに。