透明水彩
一週間前の、2人の笑顔が脳裏に浮かぶ。だけどそれは刹那、血濡れの無表情へと姿を変えた。
未だ鮮明な記憶を追い払うように、頭を左右に振る。そして先程の叔父さんの言葉を反芻しながら、ごまかすように問いを紡いだ。
「万が一にも、って……」
“万が一にも”
それを前提に叔父さんに頼んでいたのなら、お父さんもお母さんも、まるで全てを予測していたみたいじゃないか。
そんなあたしの思いを裏付けるように、叔父さんは小さく首を縦に振る。
「きっと2人には全て、わかっていたんだろう。君が1人残されるであろうことも、最悪、自分達が命を落とすであろうことも。」
耐え切れず、わなわなと震え出す両手。
握りしめた封筒からクシャリと音がして、無数のシワが寄ったけれど気にする余裕も無い。
…――悔しい。
ただ、そんな思いが胸を過ぎった。
あたしだけ何も知らないで、普通に生活して。両親が何に命をかけ、何故それを狙われる羽目になっていたのかさえ、気づくことさえなく生きてきただなんて、と。