透明水彩
「……うん。まあ、それはある程度仕方ないだろ。普通に生きてきて、命を狙われるなんてことは、まず無いだろうし。」
「そう、だよね。」
「だからそれは、あまり悲観しなくてもいいよ。」
あたし自身、どれほど暗い顔をしていたのかはわからないけれど、優しい笑みを向けてくれる理人を見て、気持ちが和らいだのは事実だった。
昔と変わらない、笑顔。
笑顔から伝わる、安心感。
歳をとってもやっぱり理人は理人だな、なんて当たり前のことを思い、笑みが零れる。
「……それじゃ、相手が俺で悪いけど、少し体を動かそうか。」
「うん。」
別に、相手が理人であることに何の不服もない。
理人に言われるがまま、中距離戦での対処の仕方や近距離での身の守り方などを実践する。
あたしが今いるのは、いつまた抗争が勃発するかわからない世界――…
改めてそう実感し、身が引き締まる思いをした。