透明水彩
…――刹那。
「………莱?」
ぴくり、と、右手から確かに感じた振動。
何かと思う暇無く、弱々しい力があたしの手を包み込む。
「……莱?……莱っ!」
そしてあたしの呼び掛けに答えるように、ゆっくりと開かれたエメラルドグリーンの瞳。その視線は数秒宙を彷徨ったかと思うと、ゆっくりとあたしの姿を捉えた。
「……み、な、ぎ、さ、ん、」
そして一語一語噛み締めるように、あたしの名前を呼ぶ。
同時に莱の左手が優しくあたしの頭に触れ、柔らかく微笑むから、ついに涙はとどまることなく溢れ出す。
「泣かないで、ください。俺は、もう、大丈夫、ですよー。」
「…っ、莱が、死んじゃうかと、思っ…、」
「死にません、美凪サンを守りきる、までは。」
莱が生きてる、笑ってる。
その事実だけがあたしの全てで、それこそさっきまでのあたしが、何より望んでいたこと。
ゆっくりと言葉を紡ぎ続ける莱の左手は、あたしの涙を拭うように優しく頬へと触れた。