透明水彩
そんなことを思いながらも、全く落ち着かない精神状態。
理人が自分の上着をあたしに掛け、そのままあたしを抱き抱えるのをただ黙って認識している他なかった。
そしてしばらく運ばれ、古そうなドアが開く音がしたと同時に、降り注ぐ雨が途絶えた。どうやら室内に入ったようだけれど、これがどこかはわからない。
「……り、ひと?」
「大丈夫。雨がやむまで、ここで時間を潰そう。」
暗い中目を凝らせば、どうやらここは廃墟と化した山小屋のようで。
理人に下ろされるがまま、古いソファーの上、彼に寄り掛かるように腰を下ろした。
雨の音は、未だやまない。
脳裏には鮮明に、赤い色が広がる。
雨で濡れて冷えたせいか、込み上げる恐怖のせいなのか、身体が震えた。
そんなあたしを安心させるかのように、理人はただ、「大丈夫。」と繰り返す。
…――大丈夫。
その言葉でふと、莱のことを思い出した。