透明水彩
「じゃあさ、叔父さん…、」
どうせならもっと、明確な事実を告げてほしかった。抽象的になんかじゃなく、細かく具体的に。
あたしがどうして命を狙われるのか、組織とは何なのか、残されたリングとの関係性とか、研究のこととか。
「その“安全な世界”って、どこなの?」
詳しいことを知らないまま、ただ素直に残された手紙を信じるなんて、あまりにも理不尽でしょ。簡単に納得なんてできない。
あたしだけ助かりたい、とか、別にそんなんじゃないけれど。その世界が安全かどうかなんて、それこそどうしてそう言えるの。
「それは……」
「わからないなら、いいんだ。だからもう少し、あたしにも考えさせて。」
今はまだ、もう少し。与えられた情報を今すぐ整理することなんてできないのだから。
口を噤んだ叔父さんにそれだけ言い、あたしはまた手紙へと視線を落とす。
文字の羅列の裏に隠された秘密は何なのか、考えるほどに深まる困惑、巡る思考…。そして無限にループする疑問は、ある一つの問いに帰着する。
“あたしは本当に、狙われてるの?”
両親がああなった以上、確かに丸っきり考えてなかった訳ではないけれど、やっぱり実感が伴わない。
それに、それが事実か否かによって、これからのあたしの人生は大きく左右されるのだから。
― Prologue * END ―