透明水彩
自身の嘔吐物と辺りからの異臭が絡み合い、むせ返るような強烈な匂いに、一向に吐き気は収まらない。
胃の内容物を出し切るようにひとしきり吐き終わった後、乱れた息を正すために何度か深呼吸を繰り返した。
けれどその度、やっぱり肺を満たすのは変わらない匂いで。再び込み上げてきた物を吐き出さないよう、反射的に口を左手で覆う。
そしてゆっくりと立ち上がったとき、変わり果てたお父さんの姿が再び視界に映った。
「…――おとう、さん…?」
けれど、掠れた声で問いかけても、やはり微動だにしない。がくがくと震える膝を引きずって近づき、そっと血濡れの身体に触れてみれば、無機質な冷たさが指先から伝わってきた。
違和感を感じるような、冷たさ。
生きている人間では、絶対にありえないような冷え方。
…――ああ、死んでる。
そうシンプルに、それだけ。ただ漠然と、そう思った。でも刹那、それに連動するかの如く瞳が潤み、視界が徐々に霞んでいく。