灰色の瞳~例えば異常者だとしたら~
一睡もしないまま夜が明けた。
一気に上がった熱も朝には
ひいていた。
静かに部屋を出て、
書斎を通り、レコードの部屋も
すり抜けてキッチンへ向かう。
一晩経った血痕はまだ生々しく
残っている。
転がり落ちていた包丁も
新聞紙に包んで捨てた。
水で固く絞ったタオルで床を拭いた。
拭きながら、
あの日の出来事が頭を過ぎる…。
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五年前のこと。
まだ中学生だったあたしは、
親が経営する会社の一人娘で
かなり裕福な家庭で育った身だった。
バブル崩壊とともに経営も悪化し、
奈落の底へ落ちていくのは
そう時間はかからなかった。
世界の大企業とまで言われた
トップブランドの破綻は
世界を大きく揺るがし、
しばらくニュースやマスコミを
騒がせた。