灰色の瞳~例えば異常者だとしたら~



『お願いだからジッとして…!少し
 痛いだけたから…!一瞬だから…!』



あたしの躰を取り押さえて、
左腕の袖を捲る。



やめてよ…!お母さん…!
あたし死にたくないよ…!



『あたしも後を追うから…!ゆらなら
 わかるわよね?一緒にお父さんの
 ところへ逝きましょう…!』



鈍い音とともに痛みがはしる。
母親の顔に血しぶきの跡。
あたしの手首にザックリと刃先が
食い込んでいた。



みるみるうちに真っ赤に染まる
母親はケタケタ笑い出し、
横たわるあたしの目の前で
自分の首に刃物を当てて、
そのまま深く動脈を切りつけた。



今度はあたしに
生温かい血しぶきがかかる。



朦朧とした意識の中で映った
大量の血を吹き出しながら
倒れる母親。
吹き出す切り口に両手を当てて
返り血を必死に止めようとした。



かれるほど母親を呼んで、
ガタガタ震えながら
弱まっていく心音を聴いていた。



そこからあたしの記憶は消えている。










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