灰色の瞳~例えば異常者だとしたら~
当時からホテル業界の中でも
上々企業だった郷田グループの人間
だと知ったのは受け入れた後のこと。
とにかくこんなチャンスはまたとない。
例えこの先新たな地獄が待ち受けて
いようとも、此処から飛び出さなければ
何の意味もなかったから。
俺の養子入りが決まってすぐに
俺たちは出逢ったんだよ。
覚えてるか……?
外に続く長い渡り廊下を歩いていると
前から保護観察員に連れられて
車椅子に乗った女の子が近付いてきた。
桜の花びらがヒラヒラと舞う中で、
遠い目をした横顔。
頬杖をつきながらどこかを見つめてる。
袖口から見える包帯。
リストカットか……。
距離がだんだんと縮まってきた時、
一旦立ち止まり観察員に会釈すると
俺に気付いた女の子は一瞬チラリと
こっちを見てすぐにまた視線を戻した。
魂の抜け殻とでも言うのだろうか。
完全に周りの空気が違う、
一癖も二癖もありそうなタイプだけど
ゾクッとしたと言うよりかは
一瞬で射抜かれた気がした。
通り過ぎた後ろ姿を立ち尽くして
見ていた。
いや、見とれていたんだ。