灰色の瞳~例えば異常者だとしたら~
他人に全く興味のなかった自分が
一番驚いている。
大人たちにはいかに好かれるか、
それだけなんだけど
同じ境遇の子どもたちには
同情の目も、仲間意識もない。
面倒も仕方なく見ていたし、
笑顔だっていくらでも向けられた。
全ては此処から出て行くため。
大人の力を借りてね。
唯一、ゆらだけは違った。
勿論話したこともなければ、名前以外
何も知らない。
あの渡り廊下で、一瞬すれ違っただけ。
そして、部屋の前まで近付けたのも
この一度きりだけで
そのすぐ後に俺は、正式に郷田夫妻の
元へ養子入りした。
施設を出る時にもう一度
ゆらの居る部屋を見上げてみたら、
完全にカーテンで遮られていて
悲しくなったのを今でも覚えてる。
車から遠ざかっていく建物を
名残惜しく見えなくなるまで
何度も振り返ってたんだよ。
はれて「郷田 秋人」という名前を
手に入れた俺は、
今まで以上にピリピリしていた。
勿論それは、義理の両親を
がっかりさせないために。
もう二度と捨てられないために。