灰色の瞳~例えば異常者だとしたら~
『嫌だ。』
この手を振りほどいて飛び出したい
のに。
もう何の抵抗もできないこと
知ってるくせに。
あんたなら、
とっくに気付いてるんでしょ?
『ゆら。』
もう名前呼ばないで……
優しくしないでよ。
『俺はもう覚悟できてるぞ。』
考える隙さえ与えてくれずあたしに
言葉を投げかける。
『出逢った時からそうだった。お前を
一人にはさせない。そう決めたんだ。
お前がどう思おうが関係ない。俺が
そうするんだよ。』
強く強くあたしを抱き寄せる。
『寝てる間に居なくなるとか、一人で
行くとか勝手な真似したら承知しな
いぞ。俺から離れるな。』
溢れる雫は郷田の肩に落ちて
シミを作ってく。
鼻の奥をかすめるこのコロンの香りも
本当は手放したくない。