灰色の瞳~例えば異常者だとしたら~



生涯の中で、
一つだけ願いが叶うならば
あたしは惜しまず
─今この時間を止めて─
と願う。



それほどまでに
郷田はあたしに深く愛を
刻んでくれた。
温もりを与えてくれた。
他にはもう、
何もいらないくらい。



夜が明ける前にあたしは
この街を出ようと思う。
この温もりを最後に───。



『愛してる…秋人。』



ごめん、勝手だけど…許して。
あたしたちはもう、関わらない方
がいい。



愛し合った後、
郷田に睡眠薬を流し込んだ。
一番使いたくない手段だったけど
やむを得ない。



ぐっすり眠る郷田に最後の抱擁をした。



そして、最後のキス。
ありがとう…愛してくれて。
あたしたち…ここで終わって
何もなかったことにしようね。



涙を拭い、背を向けた。
目が覚めたら全て終わり。
そして始まるの。



無情にも、ドアを閉める音が部屋に
響いた。











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