灰色の瞳~例えば異常者だとしたら~



熱い刃先が皮膚に触れた。
ここから一気に深く突き刺せば
もう苦しむことはない。



最後の一瞬で、頭に浮かんだのは
やっぱり郷田の優しい笑顔。



こんなあたしに
息を吹きかけてくれてありがとう。



言葉にして伝えられなかったことは、
最後に悔やんでおくよ。





目尻から一粒の涙がこぼれた瞬間。





無音の中で、ナイフを握る手に
温かい何かが触れた気がした。



それはまるでスローモーションのごとく
指からナイフが離れていく。



暗い影があたしを包む。



花の匂いが鼻をかすめる。



トクン…と、再び心臓が波打った。
あたしはまだ、生きてる。
指から離れたナイフは、
どうやら内側の胸ポケットに
直されたようだ。










< 263 / 300 >

この作品をシェア

pagetop