灰色の瞳~例えば異常者だとしたら~
熱い刃先が皮膚に触れた。
ここから一気に深く突き刺せば
もう苦しむことはない。
最後の一瞬で、頭に浮かんだのは
やっぱり郷田の優しい笑顔。
こんなあたしに
息を吹きかけてくれてありがとう。
言葉にして伝えられなかったことは、
最後に悔やんでおくよ。
目尻から一粒の涙がこぼれた瞬間。
無音の中で、ナイフを握る手に
温かい何かが触れた気がした。
それはまるでスローモーションのごとく
指からナイフが離れていく。
暗い影があたしを包む。
花の匂いが鼻をかすめる。
トクン…と、再び心臓が波打った。
あたしはまだ、生きてる。
指から離れたナイフは、
どうやら内側の胸ポケットに
直されたようだ。