灰色の瞳~例えば異常者だとしたら~
見つめる視線に力がこもる。
声も出ない郷田に言葉をたたみかけた。
『もしも万が一、警察に何か聞かれても
黙秘して。あたしとあんたは一切関係
ない赤の他人なんだ。一緒に暮らした
こともなければ過去に一度の接点もな
かった。いいよね?』
血の気が引いていく様子が見てわかる。
これで最後……それでいい。
部屋のドアは静かに閉まった。
顔を伏せて廊下を歩く。
エレベーターを降りて、自動ドアを
くぐり抜けた。
いくつものネオンが光る夜の街を
足早に進んでいく。
もう、何の未練もない……!
最後の最後まで貫き通させて……!
『ユラ………!』
背後で聞こえた郷田の声に躰は
硬直する。
ゆっくり振り返ると、息を切らせて
駆け寄る姿。
ただ呆然と見ていることしか
出来なかった。