灰色の瞳~例えば異常者だとしたら~
『まだ警戒心は解けないか?』
心地良く響く声。
こうして人形のように
何時間だって黙っていられる。
ある意味、人形みたいな
扱いを受けてきたからね。
食事をとらなくても苦じゃない。
水を与えてもらわなくても、
どうにか生きてきた。
人形は笑わないし、何も話さない。
何も要求しちゃいけない。
あたしは、
いつでも捨てられる
人形のような存在価値だった。
いつしかあたしの目は
「色」を失った。
全てが曇った灰色の世界。
そしてあたしは「アキ」と
名乗った。
特に意味もない名前。
本名なんて、思い出したくもない。
『アキ』とまた呼ぶ声がする。
前に座っていた彼は、
いつの間にか隣にしゃがんでいて
目線を合わせている。
ゆっくりと横を見ると、
なんて悲しい顔。
やめて…そんな顔であたしを
見ないでよ。
『アキ、頼むよ。少しでも食べて?』
優しさで溢れていた瞳は
うっすらと揺らいでいる。