灰色の瞳~例えば異常者だとしたら~
彼が一口食べて、またちぎったのを
あたしの口元に持ってくる。
仕方なく小さく口を開けて
それを受け入れた。
口の中にパンの香ばしさが
一気に広がり、
サクサクもっちりした食感は
とても美味しかった。
『美味いだろ?』
声に出さずコクリと頷くあたし。
きっと、こんな朝食らしい
朝食なんて生まれて初めてかも
しれないくらい記憶にない。
続けて彼はパン以外にも、
コーヒー、サラダ、ヨーグルトと
先に自分が口を付け、
あたしの口に運んでくれた。
もういらないと首を振ると
『じゃあこの一口だけ』と
ヨーグルトをすくったスプーンを
口に入れてきた。
ほとんどが半分残った状態だけど、
あたしにしては随分食べた方だ。
朝食なんて、もともと食べないから。
軽く頭を撫でられて
『まぁ、最初はこんなもんだな』と
納得したのか、前の席に戻り
自分も食事をとった。
ピンと伸びた姿勢と
行儀のいい振る舞い。
食べ方ひとつにしても
つい見とれてしまう。
少しだけ見習い、
背筋をピンと伸ばした。
キレイに平らげた彼は
食器を片付けながら
『着替えておいで』と言う。