灰色の瞳~例えば異常者だとしたら~
『おいおい。アメリカじゃ有名だぜ?
日本でもあまり知らない奴はいない
のに。』
知らない奴が此処に居るんだよ。
ふーん、アメリカ人の歌手か。
甘く響く声。
囁くように唄えば、
時に強く訴えかけていたり
どこまでも長く続く
柔らかな声。
英語だから歌詞の意味は
わからないけど、
あたしの鼓膜を揺さぶり
心に入ってきたのは確かだ。
『Elick.Jone。未だかつて彼を抜いた
歌手は居ないよ。全国的に有名に
なったのは、残念ながら自殺した
後だったけど。』
『え…?』
自殺……?
『デビューしたての頃は誰も見向き
もしなかった。何故なら彼は孤児
院で育った身だったしね。差別視
されてたんだ。うんと昔の話さ。』
器用に野菜の皮を剥きながら話す
郷田の声に耳を傾けていた。
『それでも地道に唄い続けていたが
光を浴びることはなかった。それ
が原因かどうかはわからないけど
彼は自宅で拳銃自殺したんだ。
その後関係者が、生前録っていた
Elickの唄声をたくさんの人に聴い
てほしくて未発表曲を次々にリリ
ースした。それが爆発的に大ヒッ
トしたってわけさ。』