誓~天才演技者達の恋~

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「ユリア。今日の明華の演戯祭。その後にマスコミに発表するわ」

「私が、Yuriaだと?」

「そう。日本中が気になっている話題。良く一ヶ月もバレずに済んだわね」


香織はそう言うと、ユリアに衣装を渡した。

ユリアは黙ってそれを受け取り、着替える。


「化粧もしちゃうから、帽子を深くかぶっておきなさい」

「はい、香織さん」

「くれぐれも、日比野卓也には会わないように。この前だって、いきなり抱きついてきたでしょう?」


ユリアは顔を真っ赤にして、あの時を思い出していた。

急に抱きついてきた卓也は「百合亜」と何度も言っていて、まるで唸っているようだった。

その後卓也から離れたが、ユリアは違和感を感じてならなかった。


「あの“ゆりあ”は、私にだったのかな?」


ユリアはユリアでも、卓也は違う人と重ねていたのかも知れない。

同姓同名なんて、たくさんいる。

そうユリアは思っていた。


「しかし、面白い台本ね。一人二役の話」

「えっ!?賢斗達が演じるんじゃ?」

「あら?3人は相変わらず一緒よ。別の班。別の班が一人二役なのよ」


ユリアは鞄から台本を見た。

賢斗に返そうと思っても、連絡が取れず、この日まで持っていてしまっていたのだ。


「じゃあ、特に必要じゃ無かったから、連絡来なかったんだ」


ユリアは呟くと、香織に手を振って、和人の運転するバンに乗り込む。

和人との挨拶を終えると、ユリアは緊張して、強張った表情になる。


「もっとリラックスすればいいのに」

「出来ませんよ。今日がデビュー日って言ってもいいんですよ?」

「そうだね。でも緊張しているのは、ユリアさんだけじゃない」


ユリアは少し笑うと、明華の門を車の中から見る。

和人は少し門の前で止まると、再びハンドルを握った。


「残念ね。演戯祭が、この目で見られないなんて」

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