誓~天才演技者達の恋~


ユリアは万が一のことを考えて、今年の演戯祭を演技ホールで見ることは出来なくなった。

映像越しで見ることになるのだが、ユリアには納得できなかった。


「どうするの!?主役が高熱って!?」

「でも小阪(コサカ)さんは出るって!」


明華の前の信号。

赤で車が止まっている時に、たまたま聞こえた話声。

和人には聞こえてないらしく、涼しい顔をしていた。


「ねぇ、コサカって?」

「....?小阪茉莉(マリ)のことですか?今、チョコ棒のCMで有名じゃないですか」

「今日、何するか分かりますか?」


和人は首を傾げながらも、ユリアの質問に答える。


「確か...トップバッターで劇...その主人公じゃ無かったかな?ほら、一人二役の」

「!!!!!!!」


信号が青になり、和人が車を動かした瞬間。

ユリアは後部座席のドアを開けた。


「ユリアさんッ!?」


ブレーキ音が、明華の門前で響く。

ユリアは深く帽子をかぶったまま、話をしていた生徒に近づく。


「ねぇ、主役....動けなさそう?」

「....?えっ、えぇ、40℃近くあって...」


ユリアは口角を上げると、その生徒だけに顔が見えるように、帽子をゆっくりとあげた。

生徒は、首を傾げながらも、ユリアを見る。


「こんな私でも....綺麗になれますか?」

「あっ!!」


ユリアは生徒の口に、人差し指をおく。

「シィー。静かに」と呟くと、帽子を少し上げたまま言う。


「私に、その小阪さんの役...やらせてくれない?」

「えっ....。」


「大丈夫。台本なら一回読んだ。
大丈夫。セリフ、動きはすべて頭に入っているわ」

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