誓~天才演技者達の恋~
香織と鎌足の頬に、冷たい風があたる。
香織は助手席を開けると、鎌足を手招きした。
「お話しない?久しぶりに。
それに、あなたからもあるんでしょう?
“確信”しかない話が....」
「ハハッ!明華学園芸能科第一期生トップには叶わないな」
駐車場の料金を払い終えると、香織は高級車のエンジン音を響かせる。
鎌足と香織はしばらく無言だったが、香織から口を開けた。
「菊花プロダクションが、私の母の母のモノで、母の旧姓だと知っていたのね」
「最初は確信なんて、無かったさ。でもキクバナカオリって噂に流れた時、確信に変わったんだよ。だから興味を持った」
「昔、言ったものね。どうせなら花が入った苗字が良かったって」
「それにオマエは趣味悪く、菊の花....好きだったしな」
鎌足の言葉に香織は苦笑い。
ハンドルを強く握り締めて、香織は車のスピードを上げていく。
「高速に乗って、どこに行く気だ?」
「あなたが今、一番興味を持っていることに関係するわ」
鎌足は口笛を吹くと、気まずそうに外を見る。
明華の敷地は無駄に広く、国内で一番の敷地面積を誇る学園のことはある。
そこで数十年前、鎌足と香織は出会った。
初めて出来た芸能科のトップ生。
そして、歴史古き普通科のトップ生。
出会うはずも無かった二人が出会ってしまった理由...。
「ユリアのことでしょう?」
「....よくお分かりで」
「フフッ、昔とは立場が逆だわ」
鎌足は香織の運転する横で、若かりし日を思い出していた。
香織が眼鏡をかけて、がり勉と言われていたあの頃。
そして普通科とは思えないオーラを振りまいていた鎌足。
「普通科のあなたは目立ってた。
誰よりも目立ってた.....。そして伯守(ハクモリ)香織を、芸能科で輝かせてくれた」
「これ以上、昔の話はするなよ。聞いてて耳が痛い」
それから車の中は、永遠に無言だった。
目的地のお墓に着くまで、無言だった....。