誓~天才演技者達の恋~


香織と鎌足の頬に、冷たい風があたる。

香織は助手席を開けると、鎌足を手招きした。


「お話しない?久しぶりに。
それに、あなたからもあるんでしょう?
“確信”しかない話が....」

「ハハッ!明華学園芸能科第一期生トップには叶わないな」


駐車場の料金を払い終えると、香織は高級車のエンジン音を響かせる。

鎌足と香織はしばらく無言だったが、香織から口を開けた。


「菊花プロダクションが、私の母の母のモノで、母の旧姓だと知っていたのね」

「最初は確信なんて、無かったさ。でもキクバナカオリって噂に流れた時、確信に変わったんだよ。だから興味を持った」

「昔、言ったものね。どうせなら花が入った苗字が良かったって」

「それにオマエは趣味悪く、菊の花....好きだったしな」


鎌足の言葉に香織は苦笑い。

ハンドルを強く握り締めて、香織は車のスピードを上げていく。


「高速に乗って、どこに行く気だ?」

「あなたが今、一番興味を持っていることに関係するわ」


鎌足は口笛を吹くと、気まずそうに外を見る。

明華の敷地は無駄に広く、国内で一番の敷地面積を誇る学園のことはある。

そこで数十年前、鎌足と香織は出会った。

初めて出来た芸能科のトップ生。

そして、歴史古き普通科のトップ生。

出会うはずも無かった二人が出会ってしまった理由...。


「ユリアのことでしょう?」

「....よくお分かりで」

「フフッ、昔とは立場が逆だわ」


鎌足は香織の運転する横で、若かりし日を思い出していた。

香織が眼鏡をかけて、がり勉と言われていたあの頃。

そして普通科とは思えないオーラを振りまいていた鎌足。


「普通科のあなたは目立ってた。
誰よりも目立ってた.....。そして伯守(ハクモリ)香織を、芸能科で輝かせてくれた」

「これ以上、昔の話はするなよ。聞いてて耳が痛い」


それから車の中は、永遠に無言だった。

目的地のお墓に着くまで、無言だった....。


< 108 / 252 >

この作品をシェア

pagetop