誓~天才演技者達の恋~


観客は息を呑んだ。

まるで一つの呼吸でさえ、うるさく感じてしまう空気感。

その中で和人と賢斗だけが、マズイと心で言う。


「あの苦しみかたは....」

「賢斗?どうしたのよ。」


由梨の言葉に首を振る賢斗。

由梨は黙ったまま、ユリアの演技を見る。

会場に自分の世界を広げ、楽しそうに演技をする彼女を凄いと思い。

そして妬ましく思った。


「白野百合亜.....」

「.........」

「彼女は白野百合亜だわ」


賢斗は何も言わずに、由梨の独り言を聞く。

そんな時、楽屋から卓也が出てきた。

少し、衣装を変えているように見えるのは、賢斗だけだろうか...?


「マズイから止める」

「えっ!?」


卓也は賢斗に呟くと、迷うことなく舞台に出る。

舞台袖の人間は、口を開けて、ただ卓也を見ていた。


「卓也...?何をするつもりなの?」


舞台上のユリアも王子役も、卓也の登場に驚いていた。

そして、ユリアを抱えあげると、ユリアの耳元でセリフを言う。


{卓也,「もう満足だろう?王子の心は見えたか?」}


ユリアは目を見開いて、卓也の顔を見る。

すると視線に気がついたのか、卓也はニコリと笑った。

舞台袖の由梨は、その表情に心を奪われる。


「苦しいんだろう?どこか」

「どう...して...」

「何でかな?俺の知っている奴も、具合が悪いと、違和感を感じたんだ。」


ユリアは不思議そうな顔をした後に、ニコリとギコチなく笑う。


『何であなたには、私の痛みが分かるの?
どうして、リスクがあるのに、助けてくれるの??』
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