誓~天才演技者達の恋~
演技でも上手く笑えなかった。
役に入り込んでも、心からの笑顔は作れなかった。
普段の日常なんか笑えなくて、だんだんそれが普通だと、卓也は思っていた。
「...俺が笑ってる?」
「何言ってるの?人間なんだから、笑うのは当然でしょう?って言っても、私も久々に笑ったんだけど」
ユリアは卓也にそう言うと、まだ畳み終わっていない布団をたたむ。
卓也はユリアの背中を見つめながら、まだ顔が綻んでいることに気がつく。
「なんだろうな。もう似てるだけじゃない気がする」
卓也の呟きは、ユリアの耳には届いていなかった。
ユリアは鼻歌を交えながら、布団を畳む。
「ウワッ!」
ユリアはシーツは、何故かシーツに捕らわれていた。
悪戦苦闘する姿に、卓也は笑うしかない。
「ちょっ!笑ってないで、助けなさいよォ」
ユリアはそう言うが、とっくにシーツから出ていた。
頬を真っ赤にして卓也に訴えるユリア。
「ごめん、面白くて」
「確かに笑ったほうがいいけど、そんなことで笑われるなんて、屈辱以外の何モノでも無いのよ!!」
ユリアは卓也を叩こうとしたが、見事に卓也に阻止される。
速まる鼓動を感じながら、ユリアは卓也を見つめた。
――ジャラッ
ユリアのネックレスは、ゆっくりと下に落ちる。
ユリアは卓也の手を振り払い、ネックレスに手を伸ばした。
「嘘ッ!チェーン...切れたの?」
大事そうに抱えるユリアを見て、その物が何なのか気になった。
静かにしゃがみ、ユリアの手の中の物を見る。
「えっ!?」
卓也は目を見開き、ネックレスとユリアの顔を交互に見る。
ユリアが愛しそうに持っていたのは、百合亜にあげたネックレスそのものだった。