誓~天才演技者達の恋~
明日香の言葉に、かなり傷つく怜也。
確かに二人は他人の関係に近い。
でも、怜也は他人から...。
「あれ?そのバッチ...芸能科?」
明日香は突然、ブラザーに着いているバッチに触れた。
明華のブレザーは校章用の穴の反対側に、必ずもう一つ穴が開いていて、ドコの科に所属しているのかを示すために、その科のバッチを着けるのが義務。
もちろん明日香には普通科のバッチ。
そして怜也には芸能科のバッチが光っていた。
「あれ?今年は特例入学が二人いるってこと?」
「あぁそう。俺とYuriaっていう子」
明日香は物不思議そうにバッチを見つめる。
怜也はその視線に耐えれなくなり、身体ごと後ろに向いてしまった。
「どうしてあなたが特例?作曲家が、芸能科に入る必要あるの?」
「元々、中学受験の時にここは受かってたんだよ。でも、俺にオーケストラの作曲の話が来て...それで...」
明日香は納得したように頷くと、怜也の正面に立つ。
怜也は少し顔を真っ赤にしながらも、明日香の視線に耐えていた。
「オーケストラの作曲は上手くいった訳?」
「えっ?」
「少しばかり気になるのよ。音楽は嫌いじゃない...むしろ好きなほうだし」
怜也は笑顔を見せると、明日香の耳にヘッドホンを着け、鞄からウォー○マンを取り出す。
そして手際よく操作すると、オーケストラで演奏された曲を流した。
「帰らなくて良かったかも...」
「えっ?」
「久しぶりに、涙を流した気がするわ...あなた天才ね」
明日香は涙を流しながら、怜也が作った曲を聴く。
この曲はすべてが完璧に聴こえて、何かが足りなく感じる。
まるで人の欲望を書いているようだった。
「ハンカチ使うか?」
「フッ...これじゃ、あの時と一緒だわ」