誓~天才演技者達の恋~


「そんなに傷ついた顔するなら...歌原由梨と行動するの...止めちゃえばいいのに」


ユリアはボソリと呟いて、もう少しで卓也の頬に、手が触れようとしていた。


「ユリア!
ドコにいるんだ?」


ユリアはすぐさま手を引っ込めて、卓也の傍を走って通り過ぎる。

ユリアは両手を見つめながら、自分を呼んでいた賢斗に後ろから抱きついた。


「もう、仕事の時間だぞ?室井さんが外で待ってた」

「嘘!?もうそんな時間?ここの校舎、無駄に広いから...迷っちゃって」

「大丈夫かよ...修学旅行でも迷うんじゃねぇーの?」


賢斗はユリアのおでこにデコピンをすると、ハハッと笑った。

ユリアはその笑いにどう答えていいのか迷う。

結局、演技のYuriaの笑い方で、その場をやり過ごしてしまった。

そんな自分に腹が立って、情けなくて、どうしようも無い感情を抱きながら、ユリアは仕事場に向おうとしていた。


「ちょっと待って」

「卓也...?」


賢斗とわかれた矢先、卓也が肩で呼吸をしながらやってきた。

ユリアは卓也をジィーと見つめる。


「そんな顔で、仕事に行く気か?」

「えっ...?あなたには関係ないじゃない...!」

「関係無い筈なんだけど...気になって...賢斗と話してる時、たまたま目に入ったんだ。無理やり演技の笑顔を作ってる...オマエが」


『また見透かされた』

ユリアはドキリとしながら、車に向う。


「なぁ、オマエも俺と同じなのか?」

「.......」

「恋に迷ってる」


ユリアは足を止めて、卓也のほうへ振り返る。

そしてそのまま卓也に近づくと、右手を振り上げた。


――パシィーンッ
乾いた音が空に響く。


「あなたと...一緒にしないで!」

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