誓~天才演技者達の恋~

卓也にはさっぱり分からなかった。

第一、百合亜は死んだと思い込んでいるし

賢斗が言うはずも無い。


「いい加減にしないと、あなた、すべてを失うわよ?」


明日香は賢斗にそう言うと、雪奈にお辞儀をして、店を飛び出した。

卓也と賢斗以外に客はもういない。

明日香が賢斗に怒鳴り散らしていた時に、皆帰って行ったのだ。


「卓也くん。何飲みたい?」

「えっ!?...」


雪奈は相変わらずの笑顔だった。

卓也は不安の崖に立たされる。

Yuriaが運ばれた。

それを聞いて、足を動かそうとしている自分に驚いていた。


「俺は......彼女を選んだんです」

「...本当にそうなのかな?」

「えっ?」


雪奈は甘いコーヒーを作りながら、卓也にそう言った。

卓也はコーヒー豆を挽いている雪奈を見つめる。


「怖かった。それだけなんじゃない?」

「......」

「もし、卓也くんが考えていることが事実だとしよう。」

「!!!!!」


雪奈は砂糖をコップにガバッと入れると、お湯を注ぐ。

それを卓也や賢斗に出すんではなく、自分で飲んだ。


「珈琲はやっぱり美味しいわ。

....何度も言うけど、あなたの考えている事実は否定しない。」

「...凄いですね。雪奈さんは...相変わらず」

「褒めてくれて有難う。

もし事実だとすれば、卓也くんは...死ぬに死ねない。
百合亜ちゃんよりも先に逝きたくないハズだから...」


賢斗は話が読めないでいた。

だが、急に泣き出す卓也を見て、胸が痛んだことは確かだ。

雪奈は賢斗と卓也を見ると、ニコリと笑った。


「悩め。二人とも...後悔しないように」
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